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イビツウタ

二次創作リハビリ帳。更新不定期。

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座り込んで眼を閉じる。自然と涙が一筋流れ落ちた。
今でもしっかりと、明白に思い出せるきみの表情。


「……さようなら。もう、あえないんだね」



ぽっかりと心に穴があいてしまった気がしました。死んでしまいたくなりました。殺してしまいたくなりました。
一生この場所から離れたくなくなって、憤りを吐き出すために地面を爪で抉りました。


(どうして、)


その言葉ばかり。繰り返し壊れたラジオのように、延々と。

そして、
風が吹きました。


「……っ…ルッ、ク」


どうして姿がなくなってすらきみは。

背中を押すように、何度も風が吹きました。
だから僕は立ち上がらなくてはならなくて、生きることを放棄など出来ず。
のろのろと、動きはじめました。


(いつか、ぼくもそっちにいくだろう)


そのときにひとつだけ、ききたいことができました。


(きみは、)


風が草を揺らします。花を散らしていきます。
愛おしむように、いつまでも。



(061015 3の後。坊さん。)
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「ザハーク殿って、きれいな手をしてますよねぇ」


骨のしっかりとした長い指、整ったカーブを描く爪、白いてのひら。彼を形作る一部。
改めてきれいだと、ミアキスは触れながら思う。
何時間見ていても、飽きない。


「…ミアキス殿」
「はぁい?」
「いい加減、手を離してくれないか」
「もう少しだけ駄目ですかぁ?」


女王騎士の控え室であるこの部屋には今は2人しかいない。
普段リムスレーアに付きっきりのミアキスがこの部屋で待機しているのは珍しいことだった。

ザハークの抗議の声をいなしてミアキスは自分よりも大きなその手を両手で挟み込む。
ザハークの低めの体温がミアキスの掌によって溶かされていく。
ミアキスの行動にため息を吐きながらザハークは後数分だけ、と念を押した。
ザハークは空いた片手で器用に紙を捲っていく。
紙を捲る度に起こる空気を切る音と呼吸音だけが部屋を支配する。


ミアキスは書類に没頭するザハークをみつめる。
灰色の髪も紫の瞳も冷たさを隠さない。
そこがきれいだと、そんなことをぼんやりと考えていたら視線に耐え切れずに視線を向けたザハークと目が合った。
すかさずミアキスは口を開く。


「まだいいじゃないですかぁ」
「違う。楽しいのか?その行動は」
「…満足、するんでしょぉかぁ?」
「何故私に聞くんだ?」
「ザハーク殿って、独特なきれいさがあるんですよ」
「…ミアキス殿」
「はぁい」
「貴殿はそういったことを軽々しく口にするが、相手を選ぶべきだと思うぞ」
「そうですかぁ?」
「カイル殿にでもいってやれ。きっと喜ばれる」
「駄目ですよ。カイル殿は整った顔してますけどぉ」
「けど?」


「全然違うんです」


あのひとは優しいじゃないですか。
頬を膨らませてミアキスは言う。それでも離されない手をザハークは見つめる。
熱に侵食されすでに自分のものかミアキスのものかわからなくなり始めたそれは、じんわりと。



(060916 幻水5/ミアキスとザハーク)

産まれて生きていくにあたって罪を犯さない生物などいない。
みんな何かの犠牲の上に生きている。何かの命を奪って僕たちは今日も生きて行く。
血も肉もこの体を作り出すものは今も塗り替えられて。


「大きさはそれぞれにせよ、僕らは罪を犯して生きているんだ。それを罪と認識しているかは別として」


罰の紋章が罪負う者に罰を与えるというのなら、休みはないだろう。
チハヤは黒い左手を天に翳して言った。


「僕は裁く。それはこの紋章を宿した者の使命ともいえるから。狂わない、狂ってなどやらない。引き継いだ。紋章が今まで奪って、見てきたもの。想いとか、そういったものをすべて」


背負って僕は生きて行く。終わりの日まで。

古き海の英雄は、あの頃と同じ赤いバンダナを風にはためかせながら言った。
それを聴いていた少女、チハヤよりももっと長き時間を過ごしてきた人でなしの蒼き月の紋章を追い続ける吸血鬼は口を開く。



「本当におんしは面白い」
「貴方にはかなわない」
「いや、おんしは強い。その生き方ができる。だから紋章が、おんしを認めたのだろう」
「………」



シエラは不在である紋章が本来収まるべき自分の手の甲を見る。
こうしている間にも、恩恵を失った同胞たちは蝕まれていくのだ。
なんて無力。



「…というか。不器用だよね、僕らは」
「それにはわらわも含まれているのか?」
「じゃあ訂正。僕は不器用」
「複数形でかまわぬよ」



本当に、厄介な星の巡りのもとに生まれたものだ。
運命というものがあるのならば抗議してやりたいとチハヤは弱音を吐き、シエラは同意する。



「それでも」
「進むのだろう?」
「あなたもでしょう?」



お互い不器用で不格好な生き方しか出来ないのだと、知っていた。
知っているからこそ、傷を確かめ合う。
痛みを共有するためじゃない。不幸を嘆くためでも、絶望に暮れるためでもなく。
ただ、明日に進むために。







不器用な僕達は
(060913 4主とシエラ)
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