イビツウタ
二次創作リハビリ帳。更新不定期。
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「暴力や悪口は好意の裏返しなんだって」
さらりと王子が言うと、同席していた蜂蜜色の髪の少年ががたんと音をたてて椅子から立ち上がる。それを茶髪の少年がぐいと引き抑え、王子にぎろりと穏やかではない殺気を送る。
同じ顔のつくりをした少年の無言の怒りをも無視をして王子は続ける。
「あれだよ。不器用な愛情表現で、ねじ曲がっているんだけど本質では」
「愛なの?」
「うん」
「ほんとうに?」
「よかったねリヒャルト愛されてるね」
王子の笑みに剣聖は首が千切れそうなくらい頭を上下に振ってこたえると、するりと茶髪の少年の縛を逃れ傭兵旅団の部屋へと走っていく。
王都を奪還するのが先か、軍内で死傷者騒ぎの乱がおこるのが先か、悪乗りをして煽った王子にむけて影武者は大きくため息をついた。
「どうしてみんな僕らについてきてくれるのかな」
「・・・俺の考えでいいならば」
「うん」
「目的と手段の一致だ」
「じゃあどうしてこんなガキをリーダーとして認めているのかな」
「・・・ある意味での人望、か?」
ざあざあと雨が降る。大降りといえるそれは石造りの建物に叩きついて撥ねる。そんな中、屋上にふたつの影。
「いっそこの雨にすべて洗い流されてしまえばいいのに」
「珍しいな。お前にしてはずいぶんと悲観的だ。お前の姉が訊いたらどう思うだろうな」
「あはは、ナナミに聞かれてたらただじゃすまないね。確かに全部流したいと思えるほどマイナス思考にはなれないな」
「そうか」
「いろいろあるよね。小さいころの思い出とか、キャロの町を追い出されてからあった出会い、同盟軍のこと、ナナミとか、ジョウイの・・・」
そこまで言って口ごもった小さな軍主の頭をクライブが撫でる。雨水を吸った軍主の髪は普段の栗色よりも濃い大地のいろをしていた。
暗い色のローブから覗くクライブの褪せた金色も水に濡れて重たそうに視界をふさぐ。
雨は止む気配なく降り続き、石床の上を水溜まりへと変えていく。
「まだ、会議終わらないかな」
「おそらくまだ続いていると思うが…お前は会議に出なくていいのか?」
「うん。本当は出なきゃいけないのかもしれないけど、探しにこないし大丈夫なんじゃないかな。難しい話し合いはシュウとかアップルやクラウスに任せるよ」
「そうか」
「うん」
ざあざあと雨が降る
(僕は雨がすべてを流してくれることを祈るのだろう)
幻水2/2主とクライブ
船室のひとつ。図書室となっているドアに触れたとたん嫌な予感がした。それを振り払うように一度放したドアノブに手をかける。
そもそも普段の自分ならばこんなところに近寄りはしない(生憎剣のことや島のことを考えるだけで手一杯で本など読む気にもならない)
ただ船長でもあるチハヤに図書室にいる女性に本を渡すように頼まれたためこの船に乗り込んで近寄ることの無かった未開の地に踏み込もうとしているわけで。
意を決してというのも可笑しな話だが兎に角自分にしては珍しく慎重にドアを開ける。と、出来上がった隙間から本や紙束が雪崩のように降り注いだ。
慌てて受け止めるものの、一度勢いをつけた本の塔は崩れ落ち。
「あら、もっと慎重にあけてくださらないと」
穏やかに響くその声はしっかりと自分を責める。座り込んだ視界の端で崩れた本が転がって船の床を走る。
それを拾い上げたらしい数冊の本を抱えてた黒髪の少女は甲高い声を張り上げた。
「あんたこの間あれほど本を増やすなといわれたばかりじゃない!」
「あら、図書室に本が無い方が問題よ。あなたも古書から知を学んで少しはあの方の補佐ができるようになったら?」
「余計なお世話よ!」
頭の上で飛び交う静と動の口喧嘩にこれからどうしたものかと頭を抱えた。
幻水4/アクセルとターニャとアグネス
ずきり、と鈍い痛み。遅れて左手が脈打った気がして、チハヤは眉を顰めた。手袋を外すことはせず、反射的に抜いてしまった双剣の片割れの標的を左手首から解除する。時折、むしょうに左手を切り落としてしまいたいと思う。衝動的に。紋章が自分を捕らえているのか、自分が紋章を捕らえているのか。
「まだ、逃がさない」
剣を鞘に戻し、大きな意志を閉じ込める。弾け迸る紋章の力を力ずくで押さえ込む。それを繰り返して数百年。
「もうそろそろ。ひとりじゃ限界かな」
他の様子も見に行こう。忘れないように。忘れられないように。そうすればまだいきることができるから。膨れ上がる力に蓋をする力を。
(チハヤさん!)
耳に残る優しい声たちは、まだ気づかないふりをして。
(4主)
「水、は生きていくのに必要不可欠なんだよね」
シエルの呟きに、トーマとマルーンは顔を見合わせた。
ロードレイクは以前の姿を取り戻し、人々の生気で満ち溢れている。
全て元通りとはいかないが。それでも。
「当たり前だろ?」
「そうだね。そうだよね。よかった、取り戻せて」
「………」
太陽の光が焼き尽くしたのは水だけじゃない。きっと人のこころも、渇いてしまった。
「少しずつ、取り戻していけるといいな」
トーマの笑顔を見ながら、シエルは自分の渇きはいつ潤うのだろうと未だ乾いたままの地を感じて想う。
奪われるのは瞬きで、奪い返すのには数多の時間がかかるのだから。
(幻水5/王子とトーマとマルーン)
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